グレート・リタ/愚冷刀凛汰(逢坂鈴汰)のプロレス専門ブログ。団体は新日本、W-1。選手は武藤敬司、グレート・ムタ、飯伏幸太、棚橋弘至、中邑真輔、内藤哲也、真田聖也、その他新日本、W-1勢など。Twitter :@rita_osaka
※3週も更新がストップしてしまい申し訳ありませんでした。
何しろやたらと忙しかったもので・・・。
1周遅れですが「RYUSEI」序章6をお届けします。
連載小説『RYUSEI』
序章
6
濃密な時間が、2人を包んでいた。
お互いに関節を狙い、防ぎ、倒されては跳ね起き、そして相手を引き倒し。
何よりも苦しく、それでいて楽しい時間。
この時間が、永遠に続けば――。
新藤がそう思ったその瞬間。
残酷に、時間が止まった。
新藤が内田の腕をとろうと左手を伸ばしたその瞬間を、内田は見逃さなかった。
その左手を自らの右手で絡め取り、左足を新藤の股に差し入れる。
くるり。
そのまま巻き込まれるように回転され、気付けば左腕と左足の膝を同時に極められていた。
左膝を抱き込むように、内田が思いきり背を反らせる。
ビクトル式膝十字固め。
ロシアの格闘技、サンボの技だ。
みしっ。
新藤の膝が軋んだ。
「うああああああああああっ!」
余りの激痛に、新藤は思わず絶叫した。
明らかに、ただ関節技を受けただけの痛みとは異質なものだ。
異変に気付いたレフェリー・上田信明が新藤に駆け寄り、膝に触れる。
激痛が走った。
新藤の額に脂汗が浮かぶ。
上田は首を振り、右手を掲げた。
(ま、まだ……!)
まだ俺は、ギブアップしたわけじゃない。
まだ、戦える。
――カーン。
無情にもゴングが打ち鳴らされた。
新藤隆也の、敗北である。
悔しさと、怒りと、寂しさとが一挙に押し寄せてくる。
「う、ああああああああああああああああああああああああっ!」
闇に呑まれようとする意識の中、悲鳴とも雄叫びともとれる声で、新藤隆也は吼えた。
吼え続けた。
天に両手を差し上げ、涙も汗も何もかもそのままに、新藤は叫び続けた。
喉が裂けようともかまわなかった。
叫ぶほかに、このどうしようもない感情を表現する術を知らなかった。
上田やドクター、対戦相手の内田、そしてリングに駆け上がってきた若林に取り囲まれた新藤は、その全員の視線の中で、意識を手放した。
前十字靭帯断裂。
それが、新藤に通告された症状だった。
医師によると、前十字靭帯は血液の流れが非常に悪い場所であり、放置していても自然治癒する可能性はほとんどないということだった。
断裂した状態でもその周辺の筋肉を鍛えることで日常生活に支障が出ないレベルまでは持って行くことができるが、その場合はプロレスを諦めなければならない。
しかし手術を受けると、最低でも半年間は激しいトレーニングができない。
つまり、今年中のプロレス入門は絶望的ということになる。
一日も早くプロレスの世界に身を投じたかった新藤にとっては、非常に苦しい選択だった。
悩む新藤に、若林康夫はこう言った。
「新藤、プロレス界は逃げはしない。むしろ今よりももっと進化して、お前を待つことになるんだ。迷うな新藤。半年でも1年でも5年でもかければいい。お前が主役になる日は必ず来るんだ!」
その言葉を受け、新藤は手術を受けることを決意。
前十字靭帯の再建手術を受け、しばらく療養とリハビリに勤しむこととなった。
そして、1年半後。
日本最古にして最大のプロレス団体、東洋プロレス。
その公開入門テストに、1人の若者の姿があった。
厳しいメニューの前に受験者が次々と脱落していく。
そして、ついに1人の若者だけが残された。
若者は合格を告げられ、マイクを渡されると、自信を漲らせた表情で言った。
「東洋プロレスへの愛は誰にも負けません。新藤隆也、よろしくお願いします!」
(つづく)
何しろやたらと忙しかったもので・・・。
1周遅れですが「RYUSEI」序章6をお届けします。
連載小説『RYUSEI』
序章
6
濃密な時間が、2人を包んでいた。
お互いに関節を狙い、防ぎ、倒されては跳ね起き、そして相手を引き倒し。
何よりも苦しく、それでいて楽しい時間。
この時間が、永遠に続けば――。
新藤がそう思ったその瞬間。
残酷に、時間が止まった。
新藤が内田の腕をとろうと左手を伸ばしたその瞬間を、内田は見逃さなかった。
その左手を自らの右手で絡め取り、左足を新藤の股に差し入れる。
くるり。
そのまま巻き込まれるように回転され、気付けば左腕と左足の膝を同時に極められていた。
左膝を抱き込むように、内田が思いきり背を反らせる。
ビクトル式膝十字固め。
ロシアの格闘技、サンボの技だ。
みしっ。
新藤の膝が軋んだ。
「うああああああああああっ!」
余りの激痛に、新藤は思わず絶叫した。
明らかに、ただ関節技を受けただけの痛みとは異質なものだ。
異変に気付いたレフェリー・上田信明が新藤に駆け寄り、膝に触れる。
激痛が走った。
新藤の額に脂汗が浮かぶ。
上田は首を振り、右手を掲げた。
(ま、まだ……!)
まだ俺は、ギブアップしたわけじゃない。
まだ、戦える。
――カーン。
無情にもゴングが打ち鳴らされた。
新藤隆也の、敗北である。
悔しさと、怒りと、寂しさとが一挙に押し寄せてくる。
「う、ああああああああああああああああああああああああっ!」
闇に呑まれようとする意識の中、悲鳴とも雄叫びともとれる声で、新藤隆也は吼えた。
吼え続けた。
天に両手を差し上げ、涙も汗も何もかもそのままに、新藤は叫び続けた。
喉が裂けようともかまわなかった。
叫ぶほかに、このどうしようもない感情を表現する術を知らなかった。
上田やドクター、対戦相手の内田、そしてリングに駆け上がってきた若林に取り囲まれた新藤は、その全員の視線の中で、意識を手放した。
前十字靭帯断裂。
それが、新藤に通告された症状だった。
医師によると、前十字靭帯は血液の流れが非常に悪い場所であり、放置していても自然治癒する可能性はほとんどないということだった。
断裂した状態でもその周辺の筋肉を鍛えることで日常生活に支障が出ないレベルまでは持って行くことができるが、その場合はプロレスを諦めなければならない。
しかし手術を受けると、最低でも半年間は激しいトレーニングができない。
つまり、今年中のプロレス入門は絶望的ということになる。
一日も早くプロレスの世界に身を投じたかった新藤にとっては、非常に苦しい選択だった。
悩む新藤に、若林康夫はこう言った。
「新藤、プロレス界は逃げはしない。むしろ今よりももっと進化して、お前を待つことになるんだ。迷うな新藤。半年でも1年でも5年でもかければいい。お前が主役になる日は必ず来るんだ!」
その言葉を受け、新藤は手術を受けることを決意。
前十字靭帯の再建手術を受け、しばらく療養とリハビリに勤しむこととなった。
そして、1年半後。
日本最古にして最大のプロレス団体、東洋プロレス。
その公開入門テストに、1人の若者の姿があった。
厳しいメニューの前に受験者が次々と脱落していく。
そして、ついに1人の若者だけが残された。
若者は合格を告げられ、マイクを渡されると、自信を漲らせた表情で言った。
「東洋プロレスへの愛は誰にも負けません。新藤隆也、よろしくお願いします!」
(つづく)
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プロフィール
HN:
グレート・リタ
年齢:
895
HP:
性別:
男性
誕生日:
1129/10/16
職業:
アマチュアプロレス論者兼アマチュアプロレス小説作家
趣味:
プロレス観戦とプロレス論の構築、プロレス小説の執筆
自己紹介:
要するにただのプロレス好き。
詳細プロフィール、連絡等はTwitterに。
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