グレート・リタ/愚冷刀凛汰(逢坂鈴汰)のプロレス専門ブログ。団体は新日本、W-1。選手は武藤敬司、グレート・ムタ、飯伏幸太、棚橋弘至、中邑真輔、内藤哲也、真田聖也、その他新日本、W-1勢など。Twitter :@rita_osaka
連載小説『RYUSEI』
第1章 ジュニアの象徴
1
ゴングが打ち鳴らされた。
目の前にいるのは、自分よりも2年ほど早くデビューした若手のレスラー。
東洋プロレスからデビューした新人レスラーは、多くの場合しばらく前座で試合を行う。
龍――ドラゴンが東洋プロレスのシンボルマークであることから、新人レスラーは『ヤングドラゴン』と呼ばれる。
特別な素質――例えば常人離れした長身など――を持って入門した者や、レスリング、柔道などの格闘技で輝かしい成績を残し、鳴り物入りで入団した者はヤングドラゴンとはならず、即デビューに繋がったり、海外修行に出されたりする。
もちろん新藤隆也には、そのどちらもなかった。
それでも努力と自己アピールによって入門を果たすことができたのだ。
そのことを誇りに思っている。
しかし、目の前にいるレスラーは違う。
彼の名は高崎裕太郎(タカサキ・ユウタロウ)。
大学時代にアマチュアレスリング・グレコローマン84kg級の全日本王者になった男だ。
いわゆる『キャリア組』。
過去の東洋プロレスでは、キャリア組は生活環境や待遇などでかなり優遇され、血反吐を吐くような暮らしだったヤングドラゴン組との軋轢があったらしい。
その因縁がリング上での熱戦を生んでいた、という背景がある。
現在ではそこまで極端な格差はない。
が、やはりどうしても周囲の視線が違う。
アマレスの全日本王者。
その響きだけでもトップレスラーになりそうな予感を感じさせる。
もちろん、トップレスラーが全員キャリア組というわけではない。
レスリングが強いからプロレスがうまいわけでもない。
プロレスは、あくまでプロレスなのだ。
リング中央で、がっしりと組み合う。
手四つ。ロックアップだ。
プロレスの基本ともいえる動作。
若手は奇抜な技より、まず基本的な技を試合で繰り出していく。
実戦の中で自分のプロレスラーとしての方向性を模索していくのだ。
この高崎裕太郎というレスラー、隆也よりも身長がわずかに低い。
にもかかわらず、凄まじいまでのパワーを持っている。
腕力に特化しているわけではなく、全身の筋肉の持つレベルが極めて高いのだ。
油断するとあっという間に投げられて――。
視界が反転した。
後頭部からマットに激突する。
裕太郎のフロント・スープレックスを受けてしまったのだ。
城内の観客は大きく沸いた。
正面から相手を抱きかかえ、そのまま背後に反り投げるフロント・スープレックス。
アマレス出身のプロレスラーが得意とする技だ。
衝撃に息が詰まる。
技をかけた裕太郎がむくりと起き上がり、隆也の髪を掴んで強引に生き起こす。
そして隆也の喉元に、太い右腕を叩きつけた。
ラリアット。
またしても景色が反転する。
したたか後頭部をマットに打ち付け、隆也は一瞬意識が遠くに離れて行くのを感じた。
裕太郎が隆也に覆いかぶさる。
フォールの体勢だ。
上から押さえつけられ、両肩がついた状態でレフェリーのカウントが3つ入ってしまうと敗北になる。
1、2--。
隆也は全身に力を込め、裕太郎を跳ね飛ばすように体を浮かせた。
カウントは2。
「ちっ」
吐き捨てるように舌打ちし、裕太郎は隆也を再び引き起こした。
再びラリアットを打ち込むつもりのようだ。
そうはさせるか!
隆也は裕太郎の右頬を思い切り張り飛ばし、裕太郎がふらついた隙に両脚でマットを蹴った。
プロレスリングのマットには、衝撃緩和の為、そして飛び技を派手に演出するためにスプリングが仕込まれている。
バネの反動をもらい、思い切り高く跳ね上がった隆也は、裕太郎の分厚い胸板を両脚で突き飛ばすように蹴った。
ドロップキック。
新人レスラーとは思えないほど高いジャンプに、場内から大きなどよめきが起こる。
「しゃあああああああああっ!!」
観客に向けて叫び、手を振り上げる。
観客も歓声と拍手でそれに応える。
これが、プロレスラー。
俺が、憧れた世界だ。
数百の完成を内なるエネルギーへと変換し、隆也は裕太郎に向き直った。
(つづく)
第1章 ジュニアの象徴
1
ゴングが打ち鳴らされた。
目の前にいるのは、自分よりも2年ほど早くデビューした若手のレスラー。
東洋プロレスからデビューした新人レスラーは、多くの場合しばらく前座で試合を行う。
龍――ドラゴンが東洋プロレスのシンボルマークであることから、新人レスラーは『ヤングドラゴン』と呼ばれる。
特別な素質――例えば常人離れした長身など――を持って入門した者や、レスリング、柔道などの格闘技で輝かしい成績を残し、鳴り物入りで入団した者はヤングドラゴンとはならず、即デビューに繋がったり、海外修行に出されたりする。
もちろん新藤隆也には、そのどちらもなかった。
それでも努力と自己アピールによって入門を果たすことができたのだ。
そのことを誇りに思っている。
しかし、目の前にいるレスラーは違う。
彼の名は高崎裕太郎(タカサキ・ユウタロウ)。
大学時代にアマチュアレスリング・グレコローマン84kg級の全日本王者になった男だ。
いわゆる『キャリア組』。
過去の東洋プロレスでは、キャリア組は生活環境や待遇などでかなり優遇され、血反吐を吐くような暮らしだったヤングドラゴン組との軋轢があったらしい。
その因縁がリング上での熱戦を生んでいた、という背景がある。
現在ではそこまで極端な格差はない。
が、やはりどうしても周囲の視線が違う。
アマレスの全日本王者。
その響きだけでもトップレスラーになりそうな予感を感じさせる。
もちろん、トップレスラーが全員キャリア組というわけではない。
レスリングが強いからプロレスがうまいわけでもない。
プロレスは、あくまでプロレスなのだ。
リング中央で、がっしりと組み合う。
手四つ。ロックアップだ。
プロレスの基本ともいえる動作。
若手は奇抜な技より、まず基本的な技を試合で繰り出していく。
実戦の中で自分のプロレスラーとしての方向性を模索していくのだ。
この高崎裕太郎というレスラー、隆也よりも身長がわずかに低い。
にもかかわらず、凄まじいまでのパワーを持っている。
腕力に特化しているわけではなく、全身の筋肉の持つレベルが極めて高いのだ。
油断するとあっという間に投げられて――。
視界が反転した。
後頭部からマットに激突する。
裕太郎のフロント・スープレックスを受けてしまったのだ。
城内の観客は大きく沸いた。
正面から相手を抱きかかえ、そのまま背後に反り投げるフロント・スープレックス。
アマレス出身のプロレスラーが得意とする技だ。
衝撃に息が詰まる。
技をかけた裕太郎がむくりと起き上がり、隆也の髪を掴んで強引に生き起こす。
そして隆也の喉元に、太い右腕を叩きつけた。
ラリアット。
またしても景色が反転する。
したたか後頭部をマットに打ち付け、隆也は一瞬意識が遠くに離れて行くのを感じた。
裕太郎が隆也に覆いかぶさる。
フォールの体勢だ。
上から押さえつけられ、両肩がついた状態でレフェリーのカウントが3つ入ってしまうと敗北になる。
1、2--。
隆也は全身に力を込め、裕太郎を跳ね飛ばすように体を浮かせた。
カウントは2。
「ちっ」
吐き捨てるように舌打ちし、裕太郎は隆也を再び引き起こした。
再びラリアットを打ち込むつもりのようだ。
そうはさせるか!
隆也は裕太郎の右頬を思い切り張り飛ばし、裕太郎がふらついた隙に両脚でマットを蹴った。
プロレスリングのマットには、衝撃緩和の為、そして飛び技を派手に演出するためにスプリングが仕込まれている。
バネの反動をもらい、思い切り高く跳ね上がった隆也は、裕太郎の分厚い胸板を両脚で突き飛ばすように蹴った。
ドロップキック。
新人レスラーとは思えないほど高いジャンプに、場内から大きなどよめきが起こる。
「しゃあああああああああっ!!」
観客に向けて叫び、手を振り上げる。
観客も歓声と拍手でそれに応える。
これが、プロレスラー。
俺が、憧れた世界だ。
数百の完成を内なるエネルギーへと変換し、隆也は裕太郎に向き直った。
(つづく)
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プロフィール
HN:
グレート・リタ
年齢:
895
HP:
性別:
男性
誕生日:
1129/10/16
職業:
アマチュアプロレス論者兼アマチュアプロレス小説作家
趣味:
プロレス観戦とプロレス論の構築、プロレス小説の執筆
自己紹介:
要するにただのプロレス好き。
詳細プロフィール、連絡等はTwitterに。
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