グレート・リタ/愚冷刀凛汰(逢坂鈴汰)のプロレス専門ブログ。団体は新日本、W-1。選手は武藤敬司、グレート・ムタ、飯伏幸太、棚橋弘至、中邑真輔、内藤哲也、真田聖也、その他新日本、W-1勢など。Twitter :@rita_osaka
連載小説『RYUSEI』
序章
2
上田道場は、元プロレスラーの上田信明(ウエダ・ノブアキ)が主催するレスリング道場である。
谷口ジムと同じく、プロレスラー養成機関も兼ねている。
幾人もの汗と血と、そして涙をすすってきたであろう少し黒ずんだ床に、隆也は静かに腰を降ろした。
隣に、若林康夫の姿もある。
第10回高田道場サブミッション・レスリング大会の、開会式である。
道場には、多くの男たちが集まっていた。
隆也より遥かに体格がいい者、背がずば抜けて高い者、背は低いが鋭い目つきと雰囲気を併せ持つ者・・・。
その場にいるすべての男が、隆也のライバルである。
ぎゅっ、と拳を握りしめ、ゆっくりと開いた。
じっとりと汗に濡れている。
ふと隣の若林に目をやった。
額にうっすらと汗を浮かべ、目を閉じて大きく呼吸している。
その他の参加者たちも、それぞれなんとか昂ぶる気持ちを抑えようとしているようだ。
ぞくり。
腹の底から何か熱いものが湧き上がり、一瞬で体中の血管を駆け巡ったような感覚に、隆也は身震いした。
思わず笑みがこぼれる。
自分が、まさか武者震いするほど緊張しているとは。
ぴりぴりと肌を刺すような空気がたまらない。
辺り一帯にばら撒かれた刺激物が、肌から吸収されて体の中に染み込んでくるようだ。
一刻も早く闘いの場に飛び込みたい。
そんな衝動を何とかこらえ、隆也はすっと姿勢を正した。
『不動』と大きく書かれた掛け軸の前に、重厚な雰囲気を持つ男が現れたのだ。
この男こそ、元プロレスラー上田信明。上田道場の主催である。
格闘技色の強いプロレスで人気を博したプロレス団体・WFAインターナショナルの代表を務め、東洋プロレスとの対抗戦ではメインイベントに出場。
伝説とまで言われる名試合を闘った男である。
上田は隆也たち参加者の顔を見回すようにぐるっと首を回し、大きく頷いた。
「いい顔だ。いい目だ。この大会も今年で10年目だが、今年の参加者はみんな、特にいい顔をしている。実に強い光を秘めた目をしている」
上田は一瞬破顔し、すぐに表情を引き締めた。
「今回は10周年記念大会。節目でもあるし、今回の参加者は全員がプロレスラー志望ということだ。特別ルールを採用する。打撃なし、3カウント、場外カウントなし。もちろん危険攻撃や道具の使用は禁止。要するにだ、投げと関節技だけのプロレスルールで闘ってもらいたい」
ざわめきが広がった。
投げ技と、関節技だけのプロレスルール。
普通のアマチュアレスリングのように、両肩が一瞬でも床についたら負けるわけでも、判定があるわけでもない。
ギブアップ、またはレフェリーストップのみで決着がつくデスマッチ。
それが、今回の特別ルールの正体だ。
おそらく、参加者のほとんどはこのルールを理解して戦慄し、戸惑っていることだろう。
しかし、隆也は口元に笑みを浮かべたままだった。
これが、闘い。
これが、闘いなんだ。
ぶるっ。
再び起こった武者震いの余韻を噛み締め、隆也は真っ直ぐに上田を見据えた。
その視線に気付き、上田もまた視線を隆也に向ける。
ばちり、と火花が飛びそうな緊張感が、2人の間に走った。
と、不意に上田が視線を他の誰かに向けた。
つられて隆也もそちらを見る。
小柄な若者が、上田と視線をぶつけ合っていた。
おそらく年は、隆也と2つも違わないだろう。
しかし、その体から放たれるエネルギーは、他の参加者よりも強く輝いていた。
隆也の視線に気付いたか、その若者が隆也の方に顔を向けた。
視線が交わる。
隆也はこの時、この若者との間に生まれた不思議な縁のような何かを、おぼろげながらも感じ取っていた。
そしてこの大会で、最後に闘う相手がこの男だろう。
そう確信していた。
(つづく)
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プロフィール
HN:
グレート・リタ
年齢:
895
HP:
性別:
男性
誕生日:
1129/10/16
職業:
アマチュアプロレス論者兼アマチュアプロレス小説作家
趣味:
プロレス観戦とプロレス論の構築、プロレス小説の執筆
自己紹介:
要するにただのプロレス好き。
詳細プロフィール、連絡等はTwitterに。
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