グレート・リタ/愚冷刀凛汰(逢坂鈴汰)のプロレス専門ブログ。団体は新日本、W-1。選手は武藤敬司、グレート・ムタ、飯伏幸太、棚橋弘至、中邑真輔、内藤哲也、真田聖也、その他新日本、W-1勢など。Twitter :@rita_osaka
連載小説『RYUSEI』
第1章 ジュニアの象徴
3
試合後。
痛む首を冷やしながら早足で控室に戻る。
ヤングドラゴンは、自分の試合が終わったからと気を抜くことは許されない。
一秒でも早く着替えを済ませ、この後の先輩たちのフォローに回らなければならない。
ぶつぶつと小声で今後の予定を繰り返しながら、ドアノブに手をかけた。
と、その隆也の肩を誰かが叩いた。
「――!!」
振り返ると、そこに立っていたのは、先ほど試合で破った高崎裕太郎だった。
後輩に敗北した報復か?
警戒しながらも隆也は軽く頭を下げた。
「お疲れ様でした。試合では胸を貸していただき、ありがとうございます」
裕太郎は首を振った。その顔には不敵な笑みが張り付いている。
「お前、強ぇなぁ。俺もかなり自信あったんだけどよぉ。あのジャーマンは効いたぜぇ」
意図が読めない。
ただ後輩を称えるために呼び止めたとは思えない。
顔の笑みがそれを証明している。
「・・・何か」
隆也が切り出すと、裕太郎はその顔の笑みをさらに大きく咲かせた。
「新藤隆也。お前よ、俺とタッグ組まねぇか?」
「タッグ?」
タッグチーム、つまりペアを組もう。この男はそう言っているのだ。
「おうよ。俺もお前もまだまだ若造だけどよ、俺らのタッグならいずれこの東洋のトップに立てるぜ。まずはジュニア、それからヘビーだ。どうだ、俺と来るか」
タッグでの頂点。
考えたこともなかった。
東洋プロレスに入門し、そのリングの主役になりたい。
その思いを胸にここまでやってきたが、頂はいまだ遥か先。
手が届くどころか、この目で見ることさえ叶わないほど、高く遠い場所にある。
その頂に上り詰めるために、タッグという岩場を越えるか・・・。
裕太郎の実力は、自ら体験したとおりだ。
ふと、ある疑問が脳裏をかすめた。
隆也は、迷わずそれを裕太郎にぶつけた。
「裕太郎さん。・・・あなたもしかして、今日の試合で俺を試しました? あなたほどの実力があれば、最後のジャーマンだって返せたはず」
裕太郎は口の端を大きく歪めた。
言葉は発しなかったが、まぎれもなく肯定の意だ。
(コイツ・・・!)
食えない男だが、なかなか面白い。
隆也もにやりと笑みを浮かべ、裕太郎に手を差し出した。
裕太郎がその手をがっしりと握る。
「タッグ結成、だ」
「ですね」
「おいおい、タッグパートナーだし、キャリアも歳も1年しか違わないんだぜ? 敬語なんていいよ遣わなくて。普通に、同期として接してくれてもいい。それぐらいやって結束しなきゃ、若造二人のタッグが上に行くことなんて出来やしねぇ」
「・・・わかった。よろしく、裕太郎」
「よろしく頼むぜ、新藤チャン」
――東洋プロレス・ジュニアヘビー級におけるタッグのベルト、WGPジュニアタッグ選手権試合。
若手ながらも並み居る強豪を撃破し、ついにその頂に立ったタッグチーム『チャーミング&チャーミング』との死闘を制し、新たなチャンピオンチームとなったのは、東洋プロレスの生ける伝説と呼ばれる男たち。
ベテランユニット『神話軍』の龍神ドラゴン・ライダー&ATSUSHI組。
ライダーが試合後、マイクを取った。
「俺たちが新チャンピオンだーっ!!」
大歓声が起きた。
プロレスラーとしての全盛期はとうに越え、ゆっくりとした下り坂に差し掛かっていてもなお、その支持率は凄まじい。
ジュニアヘビー級という階級の黎明期から第一線で闘い続け、時にはヘビー級の選手にも立ち向かっていくその姿は、いつも観客の感動を呼び起こしてきた。
彼が『ジュニアの象徴』と呼ばれる所以である。
「オイ、チャミチャミ。お前らがリマッチやりたいってんならやってやるぞ! もしくは他に挑戦したいやつがいたら受けてやるぞ!! 誰でも来い!!」
再び大歓声。
声が膜のようにリングを包み込むのが見えるかのようだ。
そのカーテンをくぐり、リングに向かう者たちがいた。
男たちの姿を見た時、世界の龍神の、恐ろしいマスクの下に隠された素顔が、はっきりと意外な表情を浮かべた。
「お? なんだお前ら、タッグ組んだのか? で、ここに来たってことは、だ。俺とATSUSHIのタッグベルト、挑戦する気で来たんだよな? 残念ながら、お前らじゃ、俺らには勝てないぞ。負けると分かってて挑んでくるなら、いいぜ、受けてやろう。まずはお前らの口からはっきりと、挑戦すると言え!!」
ライダーがマイクを投げる。
リングに落ちて弾んだマイクを拾ったのは、高崎裕太郎。
後に続くのは、新藤隆也である。
裕太郎はふてぶてしいまでの笑顔で会場を見渡し、マイクを口元に運んだ。
「えー・・・皆さん、どうも。みなさんの中には、俺たちを知らない人達も、いると思いますが。俺たちが! 東洋ジュニア『最強』のタッグチーム。高崎裕太郎、新藤隆也。二人で『LIMITLESS(リミットレス)』だ!」
歓声、そしてブーイング。
それらを自ら浴びるように手を広げ、裕太郎はライダーに向き直った。
「ライダーさん。言えと言われたので言います。俺と、新藤、LIMITLESSが。次の挑戦者だ!」
裕太郎が投げつけたマイクをキャッチし、ライダーが続ける。
「聞いたか裕太郎。この歓声の差を。お前らじゃ俺らとは釣り合わないんだ。でも、さっきやるって言ったからな。やってやろうじゃないか。お前らには若さと勢いがあるだろう。でもな、俺らにはそれ以外の全てがあるんだ。パワーも、テクニックも、スタミナも、人気も、キャリアもあるんだ! お前らな、俺らを倒そうっていうならな、その全てを越えるつもりで来い!! ・・・さっきから、裕太郎ばっかりしゃべってるよな。新藤、お前もわかってんのか!」
マイクが、隆也の目の前に落とされる。
それを隆也は躊躇なく拾い上げた。
「キャリアは越えられねぇよ」
吐き捨てるように言い、新藤はマイクを放り投げた。
短いながらも先輩の揚げ足を堂々ととるその姿に、観客からは拍手と、歓声。そしていくらかのブーイングが投げつけられた。
しかし、隆也は表情を変えず、目の前の生ける伝説二人を睨み付けていた。
後日。記者会見&調印式が行われ、正式にLIMITLESS vs 神話軍タッグチームのタイトルマッチが決定した。
相手はジュニアの象徴。生ける伝説。
しかし、彼らを越えていかなければ未来はない。
ただ踏み越えるのではだめだ。
飛び越えなければ。
パワーとレスリングテクニックでは、キャリアの長い相手側に一日の長がある。
ことパワーに関しては、裕太郎の方が確実に上。
なら俺はどうするか。
スピード、そして・・・。
跳躍、だ。
この日、模索中だった隆也のファイティングスタイルは明確に定まった。
初めてトップロープから飛ぶ技を練習した時、その高さと恐怖に驚いた。
しかし、隆也は確実に手応えを感じていた。
これが自分の戦い方なんだと。
タイトルマッチまでの地方巡業シリーズで、隆也は次々と新しいムーブ(技、動き)を披露していった。
全身をバネのように使い、リング内を所狭しと動き回る隆也の姿は、とあるトップレスラーの若い頃の姿を思わせた。
人々はいつしか、隆也をそのレスラーの愛称で呼ぶようになった。
『ジーニアス』と。
(続く)
第1章 ジュニアの象徴
3
試合後。
痛む首を冷やしながら早足で控室に戻る。
ヤングドラゴンは、自分の試合が終わったからと気を抜くことは許されない。
一秒でも早く着替えを済ませ、この後の先輩たちのフォローに回らなければならない。
ぶつぶつと小声で今後の予定を繰り返しながら、ドアノブに手をかけた。
と、その隆也の肩を誰かが叩いた。
「――!!」
振り返ると、そこに立っていたのは、先ほど試合で破った高崎裕太郎だった。
後輩に敗北した報復か?
警戒しながらも隆也は軽く頭を下げた。
「お疲れ様でした。試合では胸を貸していただき、ありがとうございます」
裕太郎は首を振った。その顔には不敵な笑みが張り付いている。
「お前、強ぇなぁ。俺もかなり自信あったんだけどよぉ。あのジャーマンは効いたぜぇ」
意図が読めない。
ただ後輩を称えるために呼び止めたとは思えない。
顔の笑みがそれを証明している。
「・・・何か」
隆也が切り出すと、裕太郎はその顔の笑みをさらに大きく咲かせた。
「新藤隆也。お前よ、俺とタッグ組まねぇか?」
「タッグ?」
タッグチーム、つまりペアを組もう。この男はそう言っているのだ。
「おうよ。俺もお前もまだまだ若造だけどよ、俺らのタッグならいずれこの東洋のトップに立てるぜ。まずはジュニア、それからヘビーだ。どうだ、俺と来るか」
タッグでの頂点。
考えたこともなかった。
東洋プロレスに入門し、そのリングの主役になりたい。
その思いを胸にここまでやってきたが、頂はいまだ遥か先。
手が届くどころか、この目で見ることさえ叶わないほど、高く遠い場所にある。
その頂に上り詰めるために、タッグという岩場を越えるか・・・。
裕太郎の実力は、自ら体験したとおりだ。
ふと、ある疑問が脳裏をかすめた。
隆也は、迷わずそれを裕太郎にぶつけた。
「裕太郎さん。・・・あなたもしかして、今日の試合で俺を試しました? あなたほどの実力があれば、最後のジャーマンだって返せたはず」
裕太郎は口の端を大きく歪めた。
言葉は発しなかったが、まぎれもなく肯定の意だ。
(コイツ・・・!)
食えない男だが、なかなか面白い。
隆也もにやりと笑みを浮かべ、裕太郎に手を差し出した。
裕太郎がその手をがっしりと握る。
「タッグ結成、だ」
「ですね」
「おいおい、タッグパートナーだし、キャリアも歳も1年しか違わないんだぜ? 敬語なんていいよ遣わなくて。普通に、同期として接してくれてもいい。それぐらいやって結束しなきゃ、若造二人のタッグが上に行くことなんて出来やしねぇ」
「・・・わかった。よろしく、裕太郎」
「よろしく頼むぜ、新藤チャン」
――東洋プロレス・ジュニアヘビー級におけるタッグのベルト、WGPジュニアタッグ選手権試合。
若手ながらも並み居る強豪を撃破し、ついにその頂に立ったタッグチーム『チャーミング&チャーミング』との死闘を制し、新たなチャンピオンチームとなったのは、東洋プロレスの生ける伝説と呼ばれる男たち。
ベテランユニット『神話軍』の龍神ドラゴン・ライダー&ATSUSHI組。
ライダーが試合後、マイクを取った。
「俺たちが新チャンピオンだーっ!!」
大歓声が起きた。
プロレスラーとしての全盛期はとうに越え、ゆっくりとした下り坂に差し掛かっていてもなお、その支持率は凄まじい。
ジュニアヘビー級という階級の黎明期から第一線で闘い続け、時にはヘビー級の選手にも立ち向かっていくその姿は、いつも観客の感動を呼び起こしてきた。
彼が『ジュニアの象徴』と呼ばれる所以である。
「オイ、チャミチャミ。お前らがリマッチやりたいってんならやってやるぞ! もしくは他に挑戦したいやつがいたら受けてやるぞ!! 誰でも来い!!」
再び大歓声。
声が膜のようにリングを包み込むのが見えるかのようだ。
そのカーテンをくぐり、リングに向かう者たちがいた。
男たちの姿を見た時、世界の龍神の、恐ろしいマスクの下に隠された素顔が、はっきりと意外な表情を浮かべた。
「お? なんだお前ら、タッグ組んだのか? で、ここに来たってことは、だ。俺とATSUSHIのタッグベルト、挑戦する気で来たんだよな? 残念ながら、お前らじゃ、俺らには勝てないぞ。負けると分かってて挑んでくるなら、いいぜ、受けてやろう。まずはお前らの口からはっきりと、挑戦すると言え!!」
ライダーがマイクを投げる。
リングに落ちて弾んだマイクを拾ったのは、高崎裕太郎。
後に続くのは、新藤隆也である。
裕太郎はふてぶてしいまでの笑顔で会場を見渡し、マイクを口元に運んだ。
「えー・・・皆さん、どうも。みなさんの中には、俺たちを知らない人達も、いると思いますが。俺たちが! 東洋ジュニア『最強』のタッグチーム。高崎裕太郎、新藤隆也。二人で『LIMITLESS(リミットレス)』だ!」
歓声、そしてブーイング。
それらを自ら浴びるように手を広げ、裕太郎はライダーに向き直った。
「ライダーさん。言えと言われたので言います。俺と、新藤、LIMITLESSが。次の挑戦者だ!」
裕太郎が投げつけたマイクをキャッチし、ライダーが続ける。
「聞いたか裕太郎。この歓声の差を。お前らじゃ俺らとは釣り合わないんだ。でも、さっきやるって言ったからな。やってやろうじゃないか。お前らには若さと勢いがあるだろう。でもな、俺らにはそれ以外の全てがあるんだ。パワーも、テクニックも、スタミナも、人気も、キャリアもあるんだ! お前らな、俺らを倒そうっていうならな、その全てを越えるつもりで来い!! ・・・さっきから、裕太郎ばっかりしゃべってるよな。新藤、お前もわかってんのか!」
マイクが、隆也の目の前に落とされる。
それを隆也は躊躇なく拾い上げた。
「キャリアは越えられねぇよ」
吐き捨てるように言い、新藤はマイクを放り投げた。
短いながらも先輩の揚げ足を堂々ととるその姿に、観客からは拍手と、歓声。そしていくらかのブーイングが投げつけられた。
しかし、隆也は表情を変えず、目の前の生ける伝説二人を睨み付けていた。
後日。記者会見&調印式が行われ、正式にLIMITLESS vs 神話軍タッグチームのタイトルマッチが決定した。
相手はジュニアの象徴。生ける伝説。
しかし、彼らを越えていかなければ未来はない。
ただ踏み越えるのではだめだ。
飛び越えなければ。
パワーとレスリングテクニックでは、キャリアの長い相手側に一日の長がある。
ことパワーに関しては、裕太郎の方が確実に上。
なら俺はどうするか。
スピード、そして・・・。
跳躍、だ。
この日、模索中だった隆也のファイティングスタイルは明確に定まった。
初めてトップロープから飛ぶ技を練習した時、その高さと恐怖に驚いた。
しかし、隆也は確実に手応えを感じていた。
これが自分の戦い方なんだと。
タイトルマッチまでの地方巡業シリーズで、隆也は次々と新しいムーブ(技、動き)を披露していった。
全身をバネのように使い、リング内を所狭しと動き回る隆也の姿は、とあるトップレスラーの若い頃の姿を思わせた。
人々はいつしか、隆也をそのレスラーの愛称で呼ぶようになった。
『ジーニアス』と。
(続く)
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プロフィール
HN:
グレート・リタ
年齢:
895
HP:
性別:
男性
誕生日:
1129/10/16
職業:
アマチュアプロレス論者兼アマチュアプロレス小説作家
趣味:
プロレス観戦とプロレス論の構築、プロレス小説の執筆
自己紹介:
要するにただのプロレス好き。
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