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グレート・リタ/愚冷刀凛汰(逢坂鈴汰)のプロレス専門ブログ。団体は新日本、W-1。選手は武藤敬司、グレート・ムタ、飯伏幸太、棚橋弘至、中邑真輔、内藤哲也、真田聖也、その他新日本、W-1勢など。Twitter :@rita_osaka
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連載小説『RYUSEI』



第1章 ジュニアの象徴







 試合後。
 痛む首を冷やしながら早足で控室に戻る。
 ヤングドラゴンは、自分の試合が終わったからと気を抜くことは許されない。
 一秒でも早く着替えを済ませ、この後の先輩たちのフォローに回らなければならない。
 ぶつぶつと小声で今後の予定を繰り返しながら、ドアノブに手をかけた。
 と、その隆也の肩を誰かが叩いた。
「――!!」
 振り返ると、そこに立っていたのは、先ほど試合で破った高崎裕太郎だった。
 後輩に敗北した報復か?
 警戒しながらも隆也は軽く頭を下げた。
「お疲れ様でした。試合では胸を貸していただき、ありがとうございます」
 裕太郎は首を振った。その顔には不敵な笑みが張り付いている。
「お前、強ぇなぁ。俺もかなり自信あったんだけどよぉ。あのジャーマンは効いたぜぇ」
 意図が読めない。
 ただ後輩を称えるために呼び止めたとは思えない。
 顔の笑みがそれを証明している。
「・・・何か」
 隆也が切り出すと、裕太郎はその顔の笑みをさらに大きく咲かせた。
「新藤隆也。お前よ、俺とタッグ組まねぇか?」
「タッグ?」
 タッグチーム、つまりペアを組もう。この男はそう言っているのだ。
「おうよ。俺もお前もまだまだ若造だけどよ、俺らのタッグならいずれこの東洋のトップに立てるぜ。まずはジュニア、それからヘビーだ。どうだ、俺と来るか」
 タッグでの頂点。
 考えたこともなかった。
 東洋プロレスに入門し、そのリングの主役になりたい。
 その思いを胸にここまでやってきたが、頂はいまだ遥か先。
 手が届くどころか、この目で見ることさえ叶わないほど、高く遠い場所にある。
 その頂に上り詰めるために、タッグという岩場を越えるか・・・。
 裕太郎の実力は、自ら体験したとおりだ。
 ふと、ある疑問が脳裏をかすめた。
 隆也は、迷わずそれを裕太郎にぶつけた。
「裕太郎さん。・・・あなたもしかして、今日の試合で俺を試しました? あなたほどの実力があれば、最後のジャーマンだって返せたはず」
 裕太郎は口の端を大きく歪めた。
 言葉は発しなかったが、まぎれもなく肯定の意だ。
(コイツ・・・!)
 食えない男だが、なかなか面白い。
 隆也もにやりと笑みを浮かべ、裕太郎に手を差し出した。
 裕太郎がその手をがっしりと握る。
「タッグ結成、だ」
「ですね」
「おいおい、タッグパートナーだし、キャリアも歳も1年しか違わないんだぜ? 敬語なんていいよ遣わなくて。普通に、同期として接してくれてもいい。それぐらいやって結束しなきゃ、若造二人のタッグが上に行くことなんて出来やしねぇ」
「・・・わかった。よろしく、裕太郎」
「よろしく頼むぜ、新藤チャン」
 
 
 ――東洋プロレス・ジュニアヘビー級におけるタッグのベルト、WGPジュニアタッグ選手権試合。
 若手ながらも並み居る強豪を撃破し、ついにその頂に立ったタッグチーム『チャーミング&チャーミング』との死闘を制し、新たなチャンピオンチームとなったのは、東洋プロレスの生ける伝説と呼ばれる男たち。
 ベテランユニット『神話軍』の龍神ドラゴン・ライダー&ATSUSHI組。
 ライダーが試合後、マイクを取った。
「俺たちが新チャンピオンだーっ!!」
 大歓声が起きた。
 プロレスラーとしての全盛期はとうに越え、ゆっくりとした下り坂に差し掛かっていてもなお、その支持率は凄まじい。
 ジュニアヘビー級という階級の黎明期から第一線で闘い続け、時にはヘビー級の選手にも立ち向かっていくその姿は、いつも観客の感動を呼び起こしてきた。
 彼が『ジュニアの象徴』と呼ばれる所以である。
「オイ、チャミチャミ。お前らがリマッチやりたいってんならやってやるぞ! もしくは他に挑戦したいやつがいたら受けてやるぞ!! 誰でも来い!!」
 再び大歓声。
 声が膜のようにリングを包み込むのが見えるかのようだ。
 そのカーテンをくぐり、リングに向かう者たちがいた。
 男たちの姿を見た時、世界の龍神の、恐ろしいマスクの下に隠された素顔が、はっきりと意外な表情を浮かべた。
「お? なんだお前ら、タッグ組んだのか? で、ここに来たってことは、だ。俺とATSUSHIのタッグベルト、挑戦する気で来たんだよな? 残念ながら、お前らじゃ、俺らには勝てないぞ。負けると分かってて挑んでくるなら、いいぜ、受けてやろう。まずはお前らの口からはっきりと、挑戦すると言え!!」
 ライダーがマイクを投げる。
 リングに落ちて弾んだマイクを拾ったのは、高崎裕太郎。
 後に続くのは、新藤隆也である。
 裕太郎はふてぶてしいまでの笑顔で会場を見渡し、マイクを口元に運んだ。
「えー・・・皆さん、どうも。みなさんの中には、俺たちを知らない人達も、いると思いますが。俺たちが! 東洋ジュニア『最強』のタッグチーム。高崎裕太郎、新藤隆也。二人で『LIMITLESS(リミットレス)』だ!」
 歓声、そしてブーイング。
 それらを自ら浴びるように手を広げ、裕太郎はライダーに向き直った。
「ライダーさん。言えと言われたので言います。俺と、新藤、LIMITLESSが。次の挑戦者だ!」
 裕太郎が投げつけたマイクをキャッチし、ライダーが続ける。
「聞いたか裕太郎。この歓声の差を。お前らじゃ俺らとは釣り合わないんだ。でも、さっきやるって言ったからな。やってやろうじゃないか。お前らには若さと勢いがあるだろう。でもな、俺らにはそれ以外の全てがあるんだ。パワーも、テクニックも、スタミナも、人気も、キャリアもあるんだ! お前らな、俺らを倒そうっていうならな、その全てを越えるつもりで来い!! ・・・さっきから、裕太郎ばっかりしゃべってるよな。新藤、お前もわかってんのか!」
 マイクが、隆也の目の前に落とされる。
 それを隆也は躊躇なく拾い上げた。
「キャリアは越えられねぇよ」
 吐き捨てるように言い、新藤はマイクを放り投げた。
 短いながらも先輩の揚げ足を堂々ととるその姿に、観客からは拍手と、歓声。そしていくらかのブーイングが投げつけられた。
 しかし、隆也は表情を変えず、目の前の生ける伝説二人を睨み付けていた。
 後日。記者会見&調印式が行われ、正式にLIMITLESS vs 神話軍タッグチームのタイトルマッチが決定した。
 相手はジュニアの象徴。生ける伝説。
 しかし、彼らを越えていかなければ未来はない。
 ただ踏み越えるのではだめだ。
 飛び越えなければ。
 パワーとレスリングテクニックでは、キャリアの長い相手側に一日の長がある。
 ことパワーに関しては、裕太郎の方が確実に上。
 なら俺はどうするか。
 スピード、そして・・・。
 跳躍、だ。
 この日、模索中だった隆也のファイティングスタイルは明確に定まった。
 初めてトップロープから飛ぶ技を練習した時、その高さと恐怖に驚いた。
 しかし、隆也は確実に手応えを感じていた。
 これが自分の戦い方なんだと。
 タイトルマッチまでの地方巡業シリーズで、隆也は次々と新しいムーブ(技、動き)を披露していった。
 全身をバネのように使い、リング内を所狭しと動き回る隆也の姿は、とあるトップレスラーの若い頃の姿を思わせた。
 人々はいつしか、隆也をそのレスラーの愛称で呼ぶようになった。
 『ジーニアス』と。




(続く)

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プロフィール
HN:
グレート・リタ
年齢:
895
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性別:
男性
誕生日:
1129/10/16
職業:
アマチュアプロレス論者兼アマチュアプロレス小説作家
趣味:
プロレス観戦とプロレス論の構築、プロレス小説の執筆
自己紹介:
要するにただのプロレス好き。
詳細プロフィール、連絡等はTwitterに。
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